睡蓮亭銃声

そしてロウソク。ロウソクがなくてはね。

舵を小舟の上に乗せてみる:『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』練習問題5

これまでのあらすじ:

simiteru8150.hatenablog.com

・忙しくてブログに上げるタイミングを逸しかけていた。

〈練習問題⑤〉簡潔性

 一段落から一ページ(四〇〇〜七〇〇文字)で、形容詞も副詞も使わずに、何かを描写する語りの文章を書くこと。会話はなし。
 要点は情景シーン動きアクションのあざやかな描写を、動詞・名詞・代名詞・助詞だけを用いて行うことだ。
 時間表現の副詞(〈それから〉〈次に〉〈あとで〉など)は、必要なら用いてよいが、節約するべし。簡素につとめよ。(後略)

 

 待ち構えてはいるが、暗闇は静止している。相手はコツを心得ているようだ。獲物をじらすことの。正体は猟師かもしれない。老婆は苦境を再確認し、敵について推測する。とすると、やり手だ。緊張の糸を身の回りに張りめぐらせながら、胸中に凪をこしらえる。策謀から遠退く必要があった。闇夜に紛れているのは、人だろうか、それとも獣か。はたまた、怪物か。悪天候が彼女に敵対している。だが、向こうも苦心していると見た。夜目を持つ存在ならば、初撃で殺されたはず。月夜が我々を嘲笑っているらしい。
 破られた礼服の穴に夜気が染みた。このままでは埒が明かない。
 と、緊張の糸が風のふるえを触った。
 瞬間、閃光が暗闇を散らす。彼女の振るった刃が何かとぶつかったのだ。偶然の火打石は敵の腕を彼女の眼下に晒した。
 爪と剛毛。獣の方だったようだ。が、一撃に理が勝ちすぎる。謎は残る。
 一呼吸して、答えを見つけた。人狼の類だ。今宵は満月だと失念していた。刀身を杖に納めながら、老婆は嘆息した。狼は赤子でも猟師の勘を持って生まれる。では人は? 人は、訓練に勘を授かる。
 初撃を逃れたのも当然だ。敵は人狼に化したばかりなのだ!
 目を凝らすことで勝機が見えた。〈転ばぬ先の仕込み杖〉と称される武具を手に、老婆は集中する。意識を深層へ導いてゆく。彼女はこれを使った抜刀術で闘鬼の名を勝ち取ったのだ。
 覚醒させることなく、殺りきる。バラバラにするが三、されるが七ぐらいか。
 糸が震え、剣戟の火花が瞬き、そして静寂が闇を支配した。

 

雑感

日本語品詞分解ツール | konisimple toolを用いてちょくちょく副詞・形容詞を取り除く作業をしていましたが、ひとつ副詞が残っています。さて、どこでしょう。

・それ以外にもいくつか指摘されてただ肯くばかりの問題点があって、ひとつは天気の情景描写がちぐはぐなこと。悪天候なのになんで月に嘲笑われてんねん、という指摘はごもっとも。雲越しに覗いて嗤っているような性格と気味の悪いような画にしたかったんですが、先走りすぎですね。反省。

・それから「理」ってなんなのよ、という指摘もまったくその通り。ここ最近、ずっと狩猟に関するあれやこれやを益体もなく頭の上を覆う雲の中で蠢かせていて、それが不完全に出てきたっぽい。ぽいではない。ちゃんと書いた文章に責任を持ちなさい。はい。すいません。

・転ばぬ先の〜ってなんなのよ、という声には、仕込み杖というのはロマンであるから、と答えになっていない答えを返しておきます。

・正直かなりの難題だった。書き散らし終えて、亀仙人の亀こうら修行が終わった悟空たちみたいに、あらためて副詞や形容詞の便利さ、ありがたさを噛み締めることになった。

・設問から逆算して、今の語彙力だと短文しか組み立てづらいな、じゃあ速度のあるアクションを短文でこなしてみよう、という素直すぎるストラテジーだったのだけれど、周りを見渡すと、設問の縛りを感じさせないような文章を見事に組み上げている人もけっこういて、お恥ずかしい限り。あからさまに文章が不自由なんですよね、これ。地力の差をひしひしと感じる……。

・そういや「黒博物館 キャンディケイン」(藤田和田郎)、いつ単行本化するのでしょうね。

・以降の練習問題もがんばって取り組んでいきたい所存です。